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ホーム > IR情報 > 決算・IRライブラリ > 統合報告書・ディスクロージャー誌 > 財務・資本戦略担当役員メッセージ(新村 真)
専務執行役
新村 真
中期経営計画を着実に推進し、ROEの改善をキードライバーとして企業価値の向上を図っていきます。
2021年度からスタートした中期経営計画(以下、「中計」)は3年が経過し、この間、国内外の金融環境には大きな変化がありました。海外では、コロナ禍からの回復に伴うインフレ高進に対応し政策金利が大幅に引き上げられました。
一方、国内でも、円安やそれに伴う物価上昇、企業業績改善と賃金上昇に向けた動きなどから、久しぶりに金融政策が転換するなど、「金利のある世界」が話題となっています。
当行は、このような金融環境の大きな変化の中で、金利や為替などの市場リスク、信用リスクなど、各種リスクをコントロールしつつ、外国証券やプライベートエクイティファンドなどへの投資を着実に進めてきました。また、2023年度には、収益性の低い日銀預け金から、利回りが大きく改善した日本国債へのシフトにいち早く着手しました。
一方で、デジタル分野でのIT投資を積極的に進めました。このように、①市場運用からの収益の確保に加え、②デジタル技術を活用した業務効率化を通じた営業経費の着実な削減により、中計3年目にあたる2023年度の連結当期純利益は3,561億円となり、上場来最高益を更新しました。この結果、当期純利益、ROE、OHRなどの財務目標を2年前倒しで達成することができました。
さらに、2023年度は、長らく50円を維持してきた配当を、上場来初めて51円に増配することができました。増額幅は大きくありませんが、配当性向方式を採用し、利益増加にあわせて株主の皆さまへの還元を増やしたいと考える当行にとっては、今後に向けた大きな一歩であると考えています。
財務目標の達成状況と見直し
中計当初の3年間は、目標を前倒しで達成できたものの、足許の外部環境の変化やプライム上場企業として求められる「資本コストや株価を意識した経営の実現」を踏まえると、企業価値向上に向けた経営改善は道半ばであると認識しています。市場評価の代表的な指標である当行のPBRは0.61倍(2024年3月末現在)と1倍を大きく下回っています。また、株主総利回り(TSR)についても、大手銀行対比では見劣りする水準です。
この大きな要因は、ROEが、当行の認識する株主資本コストである5%を継続して下回っているためであると考えます。今回、ROEを大きく改善させることを目的に残り2年となった中計を見直しました。
PBRの改善については、「ROEの持続的な向上」、「株主資本コストの抑制」、「期待利益成長率の向上」の3つのドライバーに分解して考えています。さらに、ROEの改善を「RORA(Return on Risk Asset)改善」と「財務レバレッジのコントロール」に分けて考えることにより、PBRの改善に向けた具体的な戦略につなげていきます。最も重要だと考えているのはROEの向上です。当行は、①取得するリスク(リスクアセット)に対するリターンであるRORAの最大化に向け、成長戦略の推進による収益力強化と経費コントロールに努めます。加えて、②適切な資本配分を通じTier1資本をコントロールします。これらの取り組みにより、ROEの継続的な向上を目指します。
ROEは2026年3月に4%以上、また、次期中計(2026年度~)の早い時期に株主資本コストを上回る5%以上を目指します。ただし、これは、あくまでもファーストステップであり、中長期的にさらなる向上を目指し、次のステップにジャンプアップしたいと考えています。
PBR向上に向けた要因分解(ロジックツリー)
次に、株主資本コストの抑制を図ります。具体的には、安定性・継続性を意識した配当政策の継続に努め、内部管理態勢の強化により経営の安定性・サステナビリティを確保します。さらに、情報開示により透明性を高めます。
今後、Σビジネスなど、当行らしい新しい成長戦略による期待利益成長率の改善に努めます。
このような戦略を通じ、当行のPBRを高め、企業価値を高めていきます。
ROE※の推移と中長期目標
当行の収益を支える市場運用(マーケットビジネス)においては、日本銀行の金融政策変更に伴う国内金利の上昇局面を捉え、日本国債への投資を拡大していきます。従来から注力してきた外国証券投資やプライベートエクイティ投資などを含む戦略投資とバランスよく組み合わせた最適な運用ポートフォリオを構築し、収益の最大化を図っていきます。
一方、マーケットビジネスの運用原資は、全国の郵便局・店舗ネットワークを介してお客さまからお預かりした、約1.2億口座の個人を中心とする190兆円を超える貯金であり、お客さまとの日々のお取引(リテールビジネス)に支えられています。このリテールビジネスにおいては、基本的なバンキングアプリである「ゆうちょ通帳アプリ」などのデジタルツールが大きな武器となります。すでに通帳アプリの登録口座数は1,000万口座を超え、お客さまの利便性を高めると同時に、重要な顧客チャネル(デジタルチャネル)のひとつになりつつあります。
デジタルチャネルを通じてグループ各社や他のパートナー企業と連携し、銀行の枠を超えた多様な商品・サービスをご案内するなどのいわゆる「プラットフォームビジネス」により、当行の手数料収入の拡大につなげたいと考えています。
また、デジタルチャネルを通じて、各地の郵便局への来局誘致を行うなど、「リアルとデジタルの相互補完」を進め、新たな収益機会を開拓していきます。
さらに、「投資を通じて社会と地域の未来を創る法人ビジネス」としてスタートさせた国内のプライベートエクイティ投資(Σビジネス)についても、将来的な収益化に向けて着実に歩みを進めています。
資金収支等の推移
「ROEの持続的な向上」についてのもうひとつのポイントは、経費のコントロールです。アプリの機能拡充やDXの推進、AML/CFT/CPF※、サイバーセキュリティ強化、さらには社員の処遇改善・強化分野の社員の増員など重点分野への投資を進める一方で、既定経費の削減を継続します。見直し後の中計においても、効率性の財務目標(OHR)についてより改善したものに見直しています。
※マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与・拡散金融防止。
※金銭の信託運用損益等含むベース
※当行は相応の規模で金銭の信託を活用した有価証券運用等を行っていることを踏まえ、金銭の信託に係る運用損益等も分母に含めたOHRを指標として設定。経費÷(資金収支等+役務取引等利益)で算出。資金収支等とは、資金運用に係る収益から資金調達に係る費用を除いたもの(売却損益等を含む)。
当行の資本政策は、1充分な自己資本を保持し、財務の健全性を確保しつつ、2資本を活用した成長投資により収益力を強化し、3株主還元の充実を目指す、ということを基本方針としています。
当行は、国内基準行(規制上の所要自己資本比率:4%以上)ではありますが、外国証券やプライベートエクイティファンドなどの有価証券運用により、リスクアセットの規模が大きいことから、国内の大手金融機関と同水準の資本管理を目指しています。そのため、CET1比率(国際統一基準)によって資本の充分性を確認しています。現在、平時における目標水準を「10%程度」に設定しており、2024年3月末時点では13.23%と一定の余力がある状況です。
中計期間中は、RORAを意識しつつ、リスク対比リターンの改善につながるリスク性資産を増加させることにより、ROEの向上を目指す方針です。一方で、バーゼルⅢなど、新しい資本規制強化の影響も踏まえ、バランスよく資本を活用していきます。
CET1比率の見通し(キャピタルアロケーション)(連結)
株主還元は、資本政策における最重要テーマのひとつです。前述の基本方針に基づき、配当を基本とした株主還元の充実に努めています。現在の中計のスタートに際し、定額方式から配当性向方式に変更しています。これは、利益拡大を通じて配当の拡大を目指すことを意図したものです。
具体的には財務健全性と成長投資とのバランスを考え、配当性向は50%程度とする方針としています。また、1株あたりの配当金は、2024年度の配当予想水準からの増加を目指すこととしています。
また、自己株式取得については、市場環境、業績や内部留保の状況、成長投資の機会、日本郵政グループの当行株式保有方針などを踏まえて検討します。
なお、日本郵政株式会社による当行株式の売出しが行われた2023年3月から4月にかけては、総額1,500億円の自己株式の取得を行いました。
当期純利益および1株あたり配当金の推移(連結)
CAPM(資本資産価格モデル)の手法によれば、当行の株主資本コストは、おおむね5%程度と算出されますが、これはあくまで参考値だと考えています。当行としては、その水準のみを議論するのではなく、投資家の皆さまとの対話を重ねつつ、株主資本コストを抑制するための安定的、かつ、透明性の高い業務運営を推進していくことが重要であると考えています。
この目的に向けて、安定性・継続性・成長性を意識した配当政策の継続を目指すことに加え、リスクコントロールのための内部管理態勢の強化、人的資本経営の推進など経営基盤の強化を進めるとともに、IR活動を含む適切な情報開示に努めていきたいと考えています。
2023年3月の株式追加売出しにより、当行株主の皆さまの数は大きく増加しました。今までは「便利に使う」存在だった当行が、「投資対象」としても意識される存在になりました。
一方、当行は規制によって一部の業務が制限されており、たとえば法人のお客さまに直接貸し付けができないなど、他の銀行に比べると業務の中身が少しわかりにくい面もあるかもしれません。当行は、この統合報告書を含め、戦略や事業内容をよりわかりやすく開示することにより、当行に対するご理解を深めていただくことが最も重要であると考えています。
2023年度は、個人投資家の皆さま、内外機関投資家の皆さま、アナリストの皆さまなど幅広い方々への説明会や面談をさせていただき、不動産投資やESGへの取り組みなどテーマを絞った説明会なども開催しました。社外取締役が登壇し、執行サイドとは異なる視点で当行に関して発言いただくなど新たな試みも行いました。
「透明で積極的な開示は資本コストの低減につながる」という理由のみならず、当行が何を目指しているのか、強みをどのように伸ばそうとしているのか、課題をどのように解決したいと考えているのかなど、株主の皆さまを含むステークホルダーの方々と共有し、いただくご意見から得ることができる「気づき」や「学び」などを真摯に受け止め、しっかりと経営に反映していきたいと考えています。
当行は、見直し後の中計に基づき、着実な利益成長によるROE向上を、最大のドライバーとして企業価値の向上と社会課題の解決の両立を図るサステナビリティ経営に取り組んでいきます。ステークホルダーの皆さまの一層のご理解とご支援をお願い申し上げます。