ゆうちょ銀行は、これまでのD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の視点に加えEquity(公平、公正性)を意識することで、すべての社員に活躍できる居場所があり、事情を抱えていても働き続けられる環境整備に取り組んでいます。この取り組みの推進の一環として、2023年11月21日、スプツニ子!さんをゲストにお迎えし、DE&I推進イベント(カタライブ*スペシャルイベント2023)を開催しました。
2部構成で、第1部は、スプツニ子!さんによる講演、第2部は、スプツニ子!さん、池田社長および当行社員によるパネルディスカッションを行いました。
第1部では、「Equity(公平、公正性)とは何か?」、「Equityを実現するための企業構造デザイン見直し」等について、スプツニ子!さんに、分かりやすく丁寧にお話ししていただきました。
スプツニ子!さん
MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボ助教授、東京大学大学院特任准教授を経て、現在、東京藝術大学美術学部デザイン科准教授。2017年に世界経済フォーラム「ヤング・グローバル・リーダー」、2019年にTEDフェロー選出。第11回「ロレアル‐ユネスコ女性科学者 日本特別賞」、「Vogue Woman of the Year」、日本版ニューズウィーク「世界が尊敬する日本人100」 選出等受賞。2019年、株式会社Cradleを設立、代表取締役社長就任。
第2部では、「アンコンシャス・バイアス」や「構造的な差別」など日ごろ感じていることを、スプツニ子!さん、池田社長、当行の社員が語り合いました。
スプツニ子!さん
池田 憲人さん
Mさん
Kさん
斎藤 美香子さん
池田さん:
講演では、CIAが9.11の大規模テロを予防できなかったのは同質性の高い組織だったから、という事例の紹介がありました。これは印象的でしたね。組織の同質性が高いゆえに、リスクを見逃してしまうのですね。ここで、スプツニ子!さんに質問です。例えば、男性ばかりの組織の中で女性が1人、そんな環境で声を上げる勇気がどうしたら出てくるのか、思っていることを言える雰囲気はどうやって作るのかを、お聞きしたいです。
スプツニ子!さん:
私は東京藝術大学のデザイン科の初の女性教授ですが、そこで戸惑ったのが教授会と、子どもの保育園のお迎えの時間が被っていたこと。それを言い出すのに、1年近くかかりました。日本人は「謙虚に」とか、「言わない」というカルチャーがあると感じています。でも、私が言ったときに「悩んでいることを話してくれてありがとう」と言ってくれる先輩の教授もいました。教授会の時間が変わったことは大学にとってもプラスになったと思います。おそらく重要なのは、上司や会社側からの「働きかけ」と、「言ってくれたほうが、絶対に会社がよくなるから!」というメッセージを常日頃から発信することがいいのかもしれませんね。それから、言われた側は「感謝する姿勢」が大事ですね。私の場合も、先輩の教授に感謝されたことが嬉しかったし、これからも「言いたいな」という気持ちにさせてもらいました。
池田さん:
当行では、私のところに頻繁に社員が報告に来てくれます。これはありがたいことなのですが、どうも気になることがあります。それは私が質問をすると、報告に来た担当の社員が、一緒に来ている上司の方を見て、言っていいのか、いけないのか、表情を窺うのです。当行ではどうもそんな傾向が見られます。
スプツニ子!さん:
私がMIT(マサチューセッツ工科大学)で仕事や研究をしていたときは、多様なバックグラウンドの人に囲まれ「空気を読む」ってことがなくなっていました。それは、みんなの空気が違うから。お互いが違い過ぎて「読む空気」が共通ではなくなるのも、多様性の一つの効果ではないのでしょうか。「空気を読む」カルチャーがなくなると「単刀直入」に仕事ができるので、私にとってはやりやすかったです。
Mさん:
講演では、私も9.11の事件の話が印象的でした。ダイバーシティの欠落が命を奪いかねないという重大な問題に直結しているということは衝撃的でした。組織の同質性が高いゆえのリスクは会社に置き換えても、起こり得ることと感じました。また、構造的な差別は見えづらいということにも注意していきたいと思いました。今後のリーダーは、そういう視点も必要なのかなと思います。
スプツニ子!さん:
構造的な差別って、システム思考で考えるとよいかもしれません。一見フラットに見えるものも、システムをしっかり見て、歪みがないか検証して、あれば解消しようというのが、エクイティの考え方ですね。ダイバーシティがないと、経営戦略においてロスがあります。とくに今は、AIが仕事を本質的に変えているということに驚いています。日本郵政グループの皆さんの業務もAIが大きな変革を起こすと思います。私も今、英語のメールはほとんどAIが書く等、AIによって業務の多くが効率化しています。そのときに多様なアンテナを立てて、新しい発想で仕事のしくみそのものを変えるアイデアマンがいないと、従来どおりの仕事のしくみとか従来どおりの業界のしくみのままでは、突然ディストラクション(破壊)が起きるということが多々あると思っています。だから、今の時代はアンテナをたくさん立てる、そして空気を読み過ぎないで新しい提案をする、ということがとても重要だと思います。
Kさん:
構造的な差別は、身近なところにもあると思っていて、無意識に使うことばで誰かを傷つけていることがあるのかもしれないと思いました。例えば、「夫」とか、「ご主人」といった言葉は、同性のパートナーを排除しているのかもしれない。実際に職業をあらわす言葉でも明らかに男女を感じさせる「看護婦」や「スチュワーデス」等といった性別を限定するような言葉はすでに聞かれなくなっています。ジェンダーだけでなく自分が意識できていないことがまだあるのかもしれません。気付いたそのときに、言葉一つから変えていきたいと思いました。
スプツニ子!さん:
「パートナー」とか、ジェンダーニュートラルな新しい言葉ができていて、なんとなく耳慣れないけど、みんなが使っていくうちに慣れていくのかな。「ご主人は?」って無意識に使っている人に対しても、「嫌だ」と伝えることで考えるきっかけになると思います。そういうことに気付く人が少しずつ増えて、社会全体の言葉の使い方が変わるのだと私も同意します。
池田さん:
私は多様性を推進するために上司が変わらないといけないと思っています。何かヒントはありませんか。
スプツニ子!さん:
それはもう池田さんが「直せ!」って言えば、もっとスピーディーに変わるのでは・・・(笑)
現在はAI、DX時代の中で新しい発想が求められています。AIはすごく仕事の効率をよくしてくれて、ワークライフバランスに直結すると思っています。以前は、長時間労働とか、業務の量をすごく評価していました。これからは、長時間とか、量ではなくて、いかに効率よくゴールを達成するかが求められます。
仕事の効率を上げ、しっかり時間内に収めるっていうのは、本当にダイバーシティにも直結するって思いますよ。共働きのカップルが増えていますが、しっかりプライベートの時間を持つことは、男性も女性も求めていますね。すごくいろんな変化を感じていますね。量より質って変化はすごく大事です。この変化を応援したいですよね。
斎藤さん:
今日は、スプツニ子!さんにいろんなヒントをいただきました。ここで会場からの質問があります。
回答とともに私たちにメッセージをいただけませんか。
「スプツニ子!さんの言葉にはいつも勇気づけられます。スプツニ子!さんのように前向きなマインドを常に持ち続けるための考え方や行動等について、アドバイスをいただけませんか?」
スプツニ子!さん:
これは男性も女性も共通ですが、自分はラッキーだと思うことも重要なスキルです。基本的に自己肯定感を高く持って、自信を持つと、挑戦もしやすくなりますよ。じゃあどうすればよいか、これは科学的にも証明されていることで、毎日皆さんが「感謝したいこと」と「自分がよくできたこと」を一つずつでも書き続けることで自己肯定感が上がります。人の性格って簡単に変えられないかもしれないけど、このエクササイズはしっかり研究で実証されているので、ぜひやってみてくださいね!
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役職は当時のものです。